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鉄、硫黄、酸素を構成元素とする無機物集合体(クラスター)を持つ酵素HCPの構造と性質(大学院理工学研究科 藤城貴史 准教授)

2021/6/24

概要

埼玉大学大学院理工学研究科の藤城貴史准教授の研究グループは、鉄-硫黄-酸素を構成元素とした特殊な無機物集合体(クラスター)を持つ酵素"HCP"を大腸菌から単離し、X 線結晶構造解析と呼ばれる手法を用いて、その立体構造を明らかとしました。

本成果は、2021年6月23日に、生化学?分子生物学分野の国際誌『The FEBS Journal』に、オンライン速報版(DOI: 10.1111/febs.16062) として公開されました。

図. 大腸菌由来のHCPの立体構造と、鉄-硫黄-酸素クラスター([4Fe-2S-3O])、
およびN末端部位の突起周辺の鉄-硫黄クラスター([4Fe-4S])。

ポイント

?細胞内の酸化ストレス除去や応答に関わる大腸菌由来のHCP酵素の立体構造を解明し、その中央に鉄-硫黄-酸素クラスター[4Fe-2S-3O]、N末端に鉄-硫黄クラスター[4Fe-4S]が結合していることを明らかとしました。
?また、大腸菌由来のHCPは、他の微生物のHCPにはみられない特徴的な突起構造を[4Fe-4S]周辺に有することを明らかとしました。
?この特徴的な突起に変異を持つHCPを解析した結果、この突起部分が、[4Fe-2S-3O]のHCP内部への結合や、細胞内で一般に広く利用される還元剤NADH由来の電子をHCPが受け取る際に重要であることを示しました。
?大腸菌由来のHCPはNADHを利用し、突起構造を有しますが、他の多くの微生物のHCPはNADHを利用せず、突起構造ももちません。よって、今回の結果から、生物が進化の過程で生み出したHCPの部分構造の違いと、生物の酸化ストレス除去/応答メカニズムの関係が明らかとなるかもしれません。

研究の背景

生物は様々な無機物集合体(クラスター)を利用しており、その中で最も有名なものとして、鉄-硫黄クラスターが挙げられます。この鉄-硫黄クラスターは、酸素に対して不安定であり、酸素との反応で分解する性質が知られていますが、例外的に酸素を安定的に初めから含む「鉄-硫黄-酸素型クラスター」を利用するHCP(Hybrid Cluster Protein)が30年以上も前に見つかっていました。このHCPは、酸素のない環境でのみ生育するDesulfovibrio属から単離された"I型"HCPがよく研究されましたが、なぜクラスターに鉄と硫黄に加え酸素が存在するのか、またHCPの生理的役割や、酸素下で生育する生物のHCPはどのような構造か、など多くのことが未解明のままとなっていました。今回、我々は分子生物学で広く用いられ、酸素のない環境、ある環境の両方で生育可能な微生物「大腸菌」由来の"II型"HCPを対象に、その立体構造やクラスターの性質を調べました。

研究結果

大腸菌由来の"II型"HCPの立体構造は"おにぎり"のような形をしており、中心部に[4Fe-2S-3O]、N末端部位に[4Fe-4S]クラスターの存在が見出されました。このN末端部位は、"II型"HCPの構造が未決定であった20年もの間[2Fe-2S]と推定されてきましたが、今回の構造解析により、その情報が書き変わると共に、構造を用いた"II型"と"I型"HCPの比較?検討が可能となりました。特に、"II型"には、"I型"と決定的に異なる [4Fe-4S]周辺の突起構造が見出されたため、続けて"II型"の突起部位を"I型"の突起のないものへと入れ替えた変異型HCPの性質も調べました。当初、変異型HCPは、ほぼ機能に変化がないか、[4Fe-4S]が失われるかのどちらかを予想していましたが、結果として[4Fe-4S]は維持され、その代わり[4Fe-2S-3O]が失われました。よってこの実験結果は、[4Fe-2S-3O]のHCPへの結合には、N末端部位が何らかの形で関わることを示すものであり、生物にとってユニークな[4Fe-2S-3O]の生合成や成熟化機構の理解にヒントを与えるものとなりました。

まとめと今後の展開

今後は、高分解能の大腸菌由来HCPの構造解析や他の微生物由来のHCPの構造解析を行い、[4Fe-2S-3O]のHCPへの結合?成熟化機構や、生物の環境適応、特に酸化ストレス除去/応答とHCPの多様性の関連について調べる予定です。

原論文情報

掲載誌 The FEBS Journal
論文名 Crystal structure of Escherichia coli class II hybrid cluster protein, HCP, reveals a [4Fe-4S]   
      cluster at the N-terminal protrusion"
著者名 Takashi Fujishiro, Miho Ooi, Kyosei Takaoka、 DOI: 10.1111/febs.16062

用語解説

(1) 鉄-硫黄-酸素クラスター: 鉄と硫黄、酸素を構成元素とする金属-無機イオン集合体。安定かつ酵素活性のあるものとしては、HCPにのみ見られる[4Fe-2S-3O]のみが知られる。
(2)鉄-硫黄クラスター: 鉄と硫黄、構成元素とする金属-無機イオン集合体。タンパク質の補因子として、ほぼ全ての生物で利用される。[4Fe-4S]、[2Fe-2S]型がよく見られる型である。

研究支援

科研費 若手研究(B)、野田産研研究助成

■本記事のPDF版はこちらPDFファイルからご覧いただけます。

参考URL

藤城 貴史 (フジシロ タカシ|埼玉大学研究者総覧)このリンクは別ウィンドウで開きます

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