電気の安全?安心を守るコンパクトで安価な遮断器を開発
~カーボンニュートラルの実現を加速させる次世代型遮断器~
Frontiers of SU Research
NEXT GENERATION理工学研究科稲田 優貴
電気設備の故障を阻止し、電気を安全かつ安定して供給するために必要不可欠な遮断器、これにはいくつかの課題が存在するという。「これらの課題が再生エネルギーの普及――ひいてはカーボンニュートラル実現を阻む一因になっている」と語る本学 理工学研究科の稲田優貴准教授は、これまでにない発想で、これらの課題を一気に解決する遮断器を開発した。その概要について語っていただいた。
カーボンニュートラル社会の実現に、新たな遮断器が必要な理由
遮断器が設置される場所は、電力供給システムの中枢をなす変電所だ。電力システム内に過電流が発生した際、この異常電流を即座に遮断する。
落雷や倒木、鳥獣接触などにより、電力供給システム内部で過電流が発生するリスクは常に存在する。過電流をそのままにしておくと、設備の故障を引き起こし、電力が供給できなくなってしまう。それ故、安定的な電力供給を担保するには遮断器が必要不可欠なのである。
遮断器が求められるのは、電力供給システムに限らない。電気自動車(EV)をはじめとする乗り物の電気回路や工場の電気設備、再生可能エネルギーの蓄電?送電システムなど、電気を使うあらゆるシステムで過電流は発生するからだ。
現在、カーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギーの大量導入や電力化率の向上など、世界中で様々な取り組みが進められているが、思ったような成果が出ないのも事実である。
なぜなら、これらの多くは広く実用に供してきた交流の電力ではなく、直流の電力で運用されるからだ。つまり電気の運用様式がガラッと変わるのだ。そのため、再生可能エネルギー普及のカギとされている直流送電や、電力化率の向上に資する直流の電化機器では、多くの場合、現在流通している遮断器が最適解とはなり得ない。
まず、高電圧に対応するものは、大型で価格も高い。一方、低電圧の場合は、電流を遮断する際に火災の原因となるプラズマを噴出させる機種が多く、周囲に十分なスペースを確保する必要がある。そのため、従来の遮断器は設置場所が限られてしまい、導入不可能な場合もあるのだ。
そこで、稲田優貴准教授の研究室では、これまでにない新たな原理と構成による遮断器を考案。直流だけでなく、交流それから過電流値を問わず、あらゆる電流を確実に遮断することができ、さらにコストや設置性に優れた遮断器の基盤技術を開発した。
過電流を即座に自動で限流し遮断する、次世代型遮断器とは?
今回、稲田優貴准教授が開発した遮断器の最大の特徴は、過電流がピークに達する前に電流を遮断する点にある。
初動に時間を要するために過電流のピークが通電してから遮断する従来型の遮断器では、一時的だとしても大きな電流が電気回路に流れてしまうため電気設備の故障リスクが大きくなってしまう。しかし、本方式では、過電流の発生を自動で検知し即座に限流(電流を抑えること)し遮断する。つまり、電気設備に負担をかけず、安全に電流を遮断できるのだ。
これを実現するために目を付けたのが、限流性能に優れる「ヒューズ」と遮断性能に優れる「半導体スイッチ」。これらを組み合わせることで、従来型の課題を一気に解消する新たな遮断器を完成させたのである。この構成なら、遮断器の小型化、軽量化を実現可能だ。例えば、電気鉄道に利用される直流1.5キロボルト用の遮断器だと、従来型では大きさは約1?、重さは約100kgを優に超えるが、本方式では0.1?、10kgほどにできる。それに加えて、プラズマの噴出は無いため、設置面以上のスペースを確保する必要もない。
さらに、ヒューズ+半導体というシンプルな構成なので、製造コストが抑えられることも特筆すべき点である。
これなら洋上風力発電システムなど、設備スペースが限られるシーンでも、設置しやすい。発電システム以外にも、EVやEMS(エネルギーマネジメントシステム)など、遮断器がコンパクトで安価になることのインパクトを享受できる場面は多い。つまり、この遮断器が社会実装されれば、カーボンニュートラル実現への取り組みを大きく加速させることになるのだ。
社会実装に向け、産業界との連携を進める
新たな遮断器の基礎的な技術は、国際特許出願済みだが、これまでに電気鉄道システムや太陽光発電システム向けの数キロボルトまでの電圧については、遮断試験を完了している。現在は、多用な電力システムにも適用できるよう、数百キロボルトの電圧下でも正常動作する遮断器の設計を進めているところである。
従来は、用途に応じて構成が異なる遮断器を利用することがほとんどだが、この遮断器では基本構成を維持しつつ、用途に応じて細部を柔軟にデザインできる。そのため汎用性が高い。電力事業者や鉄道事業者、電機設備メーカーなど、遮断器に対して何かしらの課題や悩みを有する企業や組織のニーズに応えることが可能な技術である。
交流、直流を問わず、あらゆる電流を確実に遮断する、この遮断器の活用分野は極めて広い。先に挙げた電気鉄道をはじめとする交通インフラやEVなどの自動車、データセンタ、各種発電システム、マイクログリッド等々――今後、様々な領域の企業と共同で社会実装に向けた実証実験を進めるとのことである。
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