◆埼玉大学創立70周年記念事業◆「アメリカにおける『豊かさ』の行方-郊外の過去、現在、そして未来-」 埼玉大学連続市民講座part10「未来を照らす-知の最前線-」第4回を開催
2019/9/17
埼玉大学と読売新聞さいたま支局との共催による連続市民講座part10「未来を照らす-知の最前線-」の第4回を9月7日(土)に開催し、大学院人文社会科学研究科の宮田伊知郎准教授を講師に、「アメリカにおける『豊かさ』の行方-郊外の過去、現在、そして未来-」と題した講演を行いました。
「豊かさとは何でしょう」という会場への問いから始まった本講義。様々な意見が会場から出される中、宮田准教授は第二次世界大戦後、一戸建て住宅、自家用車、芝生の庭といった要素からなる郊外生活がアメリカにおける豊かな生活の象徴であったと述べました。そして、郊外生活が「豊かな生活」の象徴となった背景として、独立宣言以降「自由」がアメリカにおける豊かさの根源であり、自由な活動によって生活の豊かさを手に入れることができたが、世界恐慌によって頑張っても金銭的に豊かな生活を送ることができなくなったこと。そしてその際政府が様々な補助ををとおして国民が豊かな生活を取り戻せるよう尽力し、その補助の一つが住宅取得を促進する政策であったと述べ、「豊かな生活」のイメージとして画一的な郊外の生活を打ち出したことで、それが第二次世界大戦後も豊かな生活の象徴として続いたと説明しました。
続けて宮田准教授はアメリカ国内の黒人の人々について触れ、1863年の奴隷解放宣言によって奴隷身分から解放されたものの、貧しい生活を強いられており、自由になっても身を立てることのできない人々として差別の対象となっていたこと。そして公民権運動により差別の撤廃が図られるものの、郊外での豊かな生活を実現できるほどの余裕を持つことができなかったことに触れました。一方、豊かな郊外生活をおくる白人達は、この生活は自分たちの自助努力によって得た生活であると信じ、黒人など社会的弱者達への政府による補助が手厚くなることに反対したと説明。自分たちの豊かな郊外生活も政府の補助によってもたらされたものと解することは難しく、社会保障などを最小限にした「小さな政府」を求める声が支持するようになっていったと述べました。
宮田准教授は最後に現在と未来のアメリカについて触れ、1970年代から始まったオートメーション化による製造業やホワイトカラー職の減少により、かつての豊かな郊外生活が揺らぎ始めたことを指摘。そこに「アメリカを再び偉大に」をスローガンとするトランプが現れ、郊外の人々はかつて豊かな郊外生活が送れた「アメリカが偉大であった時代」を求め、強い魅力を感じたと述べました。しかし近年、銃乱射事件や学費の高騰をはじめとした、「子どもが安心して暮らせない、学べない環境」を憂う声が上がっており、母親をはじめとした女性を中心に銃規制や学費高騰の抑制、健康保険の充実など「大きな政府」を求める声が上がっていることを指摘しました。そして、彼らが求めるこれからの「豊かさ」か、アメリカが偉大であったころの「豊かさ」か、2020年の大統領選挙はそこが注目ですと宮田准教授は講義を締めくくりました。
当日は約360名の方々にご来場いただき、講演後のアンケートでは「今回の講義ではメディアで報じられる部分以外も垣間見えた感がありました。再度講義をお聞きしたいです」「アメリカの経済政策、人種差別?政治等の全体的な流れを関連付けて分かりやすく説明いただき、知識が少なくても理解することができました」等の感想が寄せられました。
次回は10月12日(土)に、教育学部 田代美江子教授による「人権を基盤とする教育を目指して-包括的性教育をめぐる国際的動向-」と題した講義を行います。どなたでも受講でき、事前の申込みも不要です。手話通訳も行われますので、お気軽にご参加ください。皆様のお越しをお待ちしております。
第4回の講義を担当した
大学院人文社会科学研究科 宮田准教授
今回も大変多くの皆様にご来場いただきました
参考URL