2022/08/23
【理学部】生物の生存に欠かせない金属酵素――その化学的性質を明らかにし、社会課題の解決に役立てる
理学部 分子生物学科/分子統御研究室
2022/08/23
理学部 分子生物学科/分子統御研究室
生物が生きていくために必要な化学反応を起こし、消化や代謝などを促進する働きをする酵素。そんな酵素の一種である金属酵素を対象にした研究に取り組んでいるのが、理学部 分子生物学科 分子統御研究室の藤城貴史准教授です。「酵素研究はプラモデルを作るようなもの」だという藤城准教授に研究の内容や魅力について語ってもらいました。
酵素は、私たち人間はもちろん、動物や植物など、すべての生物が持っているもの。化学反応を起こす分子で、消化や代謝などを促す役割を担っています。
その一種である金属酵素を対象とした研究が私の専門領域です。
酵素には、それだけで化学反応を起こすものと、補因子と呼ばれる補助的な分子があってはじめて化学反応を起こすものの2タイプが存在します。金属酵素とは、後者のタイプに該当し、金属イオンや金属化合物を補因子とするもの。
金属酵素は、生物の生存に不可欠な反応を起こすものが多いのですが、その反応を人の手で再現しようとすると非常に難しい。そうなると「なぜそのようなことが、生物の体内では可能なのか?」という疑問が生じます。そこで、私たちの研究では、そのような疑問を解消すべく、金属酵素と補因子の化学的性質を明らかにしようとしているわけです。
酵素の化学的性質を明らかにできれば、その成果を様々な社会課題の解決に役立てることが期待できます。
例えば、現在、研究を進めているテーマの1つに、酸素がなくても生きる特殊な微生物が有する金属酵素があります。この酵素は、常温?常圧の温和な条件で、温室効果ガスの1つである「二酸化炭素」を、有機化学工業で重要な炭素資源である「一酸化炭素」に変換します。この反応は、水性ガスシフト反応として知られる重要なものですが、もしこの酵素の働きを応用することができれば、地球温暖化の抑制と省エネルギーでの炭素資源生産を同時に達成できることになります。
ただ、そのような酵素は、酸素に弱く、構造的に不安定なので、そのまま利用するのは困難。だからこそ、その化学的性質を明らかにすることが重要だと考えています。そうすれば、環境に左右されず利用できたり、より効率的に化学反応を起こすといった物質を人工的につくることが可能になるからです。
また、様々な酵素を調べているとカタチは同じなのに、補因子や機能が異なるものが出てきます。これは恐らく、進化の過程で変化してきた結果なのだと考えられますが、その要因を調べることは、生物の進化の流れを追うことにもつながります。
このように酵素の研究は様々な側面をもっていますが、その目的は酵素と補因子の組み合わせによる化学反応のメカニズムを解き明かすことが第一。そこから、環境問題の解決や生物の進化の過程を解き明かすことなどに波及すればよいと考えながら、日々研究に勤しんでいます。
研究は、「バイオインフォマティクス(生命現象をコンピュータで解析する研究領域)」のデータを活用して、対象とする酵素を決めるところからスタートします。
対象となる酵素が決まると、それを大腸菌の中で生産し、さらにそこから高純度の酵素サンプルを精製。これを、色々な手法を用いて、調べていきます。
特に私たちの研究室が得意としているのが、X線結晶構造解析という手法。この手法を活用することで、原子レベルで酵素のカタチから、その実態を明らかにすることが可能になるのです。
なお、研究室では酵素の化学的性質の解明だけではなく、実生活に役立つ高性能酵素の作成などにも取り組んでいます。
この研究の醍醐味は、世界で初めて、酵素のカタチを見たり、反応機構や仕組みを理解できることでしょうか?
X結晶構造解析の結果は、3Dのコンピュータグラフィックで視覚化されますが、そのカタチは研究途中は見えません。だからこそ、いつも結果を見る時は「こういうカタチだったのか!」と驚かされます。不安定で扱いにくい酵素を相手にしているだけに、研究には苦労が多いですが、その分成果が表れた時の感動もひとしおです。
酵素を大腸菌から精製したり、様々な補因子と組み合わせたり、新たな酵素をつくったりするのは、プラモデルを組み立てるような楽しさがあります。私自身、子供のころから、プラモデルを作るのが大好きでしたが、今ではそれよりも面白い酵素の研究に夢中という感じです。
いずれにせよ、この研究では、酵素はいわば“相棒”のようなもの。研究室に所属する学生は、自分で選んだ酵素を対象にそれぞれ研究を進めていきますが、まずは「担当する酵素を責任をもって可愛がる気持ちをもつ」ことが大切だと考えています。